さぁ、でかけよう。奄美での最後の晩だね。
ホテルから歩いて10分くらいで着いた。島唄と郷土料理の店かずみ。
うわぁ、味がありすぎて入りやすくない。間口一間、せまっ。
一人じゃ決して入れない。二人でも予約していなかったら入らないディープな雰囲気。いってみよう。
こんちわ~。
入ると奥のカウンターへつながる通路、通路の横に座卓が3つ。ここは15人以上の客で埋まっている。
そうか観光客が予約して来るような人気店なのか、と思いきやみんな地元の人だった。
カウンターに通されて座った。5席のうちの右一つを空けた席に。
何飲もうか。いろんなところにボトルキープの焼酎が並んでいるのが目に入り、知らない銘柄もあって興味を惹かれる。ビール省略で焼酎いこう。俺は長雲、綾さんはまんこい。
乾杯だ。普段はストレートで飲むけどロックにしてみた。
うまさよりもこの場所でこうして黒糖焼酎を飲んでいる状況に酔いそうだね。
3500円で料理は決まったものが出される。
店は島唄のかずみさんと恵子さんとの二人でやっている。狭いカウンターの中で外で場所と道具をフルに生かして料理し並べて運ぶ手際の良さと経験の妙に見入る。
イカの煮つけ。バカウマ。肉厚で柔らかいこんなイカは初めてだ。うれしい。うまいうまい。
さつまあげ。バカウマ。思い出した、子供のころに親父とオカンと弟で新宿の甑島という鹿児島料理屋に行ったこと。なんで行ったか知らないけれどバカウマだった。中でもさつま揚げのウマサが白眉だったことを。それを思い出すコッテリと濃いいさつま揚げだった。唸るばかりで言葉にならない。
サトイモ。これまたウマイ。薄味で上手に炊かれた大きな里芋。深い。ありがたさを感じる。
もずくも本場か、マチガイナイ。
全部すごいウマイですね。やっと声に出せた。
そうお?ありがと。白身の魚は島の魚だからね。さつま揚げは他とはちょっと違うかも。
いらっしゃい。
一人入ってきた。顔見知りらしい。綾さんの隣、右端のカウンターに座り、ビンビールが出され話しているから常連だね。
二皿目。煮もの。
切り干し大根。太い。当然自分で切って干したもの。
たけのこ。昆布。厚揚げ。そしてこでも出た、トンコツ。やべえ、うまい。
料理を口に入れたり、焼酎をすすりながら店の雰囲気を感じていた。
礁さん礁さん、と綾さんが小突く。そちらを見るとさっき入ってきた常連が柱にかかっていた三味線を取ったところだ。
待ってました、という感じのテーブル席のみんなの顔。
これから歌いますのは~~~説明があって唄が始まった。
わぁ、なんかめちゃくちゃうまい、というかすごい。カンターの中の和美さんは当たり前に唄を返し、つづく、どこまでも。すげえ世界だ、奄美の居酒屋。
次の曲で、じゃあ太鼓入ろうか、みたいな感じになって冷蔵庫の奥の方から太鼓が出てきた。それが俺にわたされてしまった。わ、なんてこった、分からんじゃないか。
よし、次は綾ちゃんに叩いてもらおう。
こんな感じで夜な夜なここに島の唄好きたちが集まるのか。すげえ場所に来てしまったな。そしてよく俺たちを混ぜてくれるよ。あたたかい人たちだ。
左側の席にも一人二人と来て満席になった。もちろんこの二人も三味線を弾いて歌う男たちだった。
勢いのある料理はゴーヤチャンプル、魚の丸揚げ、かき揚げと次々に出てきた。
焼酎をお代わりして次々に食べ、あちらへこちらへと歌い手が変わりながら続く島唄に耳を傾けた。
愉快な明るい人達の笑いと唄と笑顔の渦に飲まれたよ。
ひとしきり食べ、呑んだところでお暇しようか。ごちそうさま。
ありがとう。楽しかった。決して忘れられない夜だった。