最近いらしているMさんは、すぐ近くに住んでいる美術の作家さん。
いろんなことを知っている。様々な国へ旅にも行かれているそうで話していると面白い。
そして沢山の植物を育てているとのことで興味深い。
先日の夜のレッスンにいらした。
「月下美人の蕾が開きそうで、今夜咲きます。そしたらもらってもらえませんか?」
とのこと。
月下美人てのは一夜限り花が開き、朝には萎んでしまうというなんともミステリアスな植物。
見たことがない。ぜひいただいて見せてもらおう。
レッスンを終え、風呂に入ったりしていた。
22時ころに「いまからお持ちしてよろしいですか?」とメール。外に出て待っていた。
わ、すげえ。こんな花なのか。
ちょうどAも帰ってきた。「っ?!すごい!」
今夜の起きている時だけ見ていられる。
何とも言えずとてもいい香りなのだ。
それは俺にとっては心地いいものだった。
23歳。初舞台で赴いたサンフランシスコ。
宿はビクトリアンハウスを改装したホテルでコテコテに調度が決まっていた。
館のあちこちに胡蝶蘭とユリが飾ってあった。
初めての海外と初めての舞台いう時間が、その家での滞在と花々の香りに収斂されているのだ。
俺の胸の中から決してない消え去ることのないみえないもの。
この花は、そんな昔の体験を思い出させ、素敵な一夜を齎してくれた。
何度も仰ぎ、そして眠りについた。
朝になると萎んでいたよ。
食べよう。教わったように酢の物にしようか。
苦いという雄蕊だか雌花だかを取り、萼とハナビラをばらし、茎は刻んだ。
オリーブオイルと黒酢、塩少々でマリネして食べた。
花自体の味は感じられない。しかしネバネバがすごい。
咲いていたあの花からは想像できないが、納豆とかモロヘイヤレベルのネバネバ具合だ。
いいねぇ、なんともウマイ。
花なんて菊ぐらいしか食ったことがないわ。
花を食う。
なんともエロチックなもんだ。
貴重な体験をした。