☆朝日新聞「究極のことば」憲法を踊る」舞踏家・笠井叡が新作公演
昨日の朝日新聞夕刊に来週の公演の記事が載りました。
以下、その文章です。
舞踏家の笠井叡(あきら)が28日、東京の国分寺市立いずみホールで「日本国憲法を踊る」と題した公演を開く。「すべての身体は時代や歴史の記憶。その身体が生みだすことばを頭より先に身体で感じたい」との思いが、笠井を「人が人であることの意味を問う究極のことば」である憲法へと向かわせた。
ドイツで身体表現の礎となるオイリュトミー思想を学び、モダンダンス、バレエ、舞踏と貪欲(どんよく)に自身の身体を開いてきた。シューベルトの歌曲「冬の旅」をソロで踊り、身体論の新著を執筆。「身体から生まれてくることばもまた踊り」との感覚にたどりついた。
そんななか、言葉とダンスのかかわりを深く考え直さずにいられなくなる「事件」が2月に起きた。
舞踊批評家協会が選ぶ「第47回舞踊批評家協会賞」に、笠井の「今晩は荒れ模様」が選ばれた。黒田育世や白河直子ら6人の旬の女性ダンサーと、「命がけで」化学反応に身を委ねた。しかし、授賞理由には「お気に入りの6人の女性ダンサーに振り付け」「全員で嬉々(きき)として踊り狂ったダンス三昧(ざんまい)の舞踏会」などあまりにも表層的で、享楽的ととらえられかねぬ言葉が並んでいた。笠井は受賞辞退を申し出た。
「僕ひとりの話なら辞退はしなかったでしょう。この賞によって見いだされてきた才能や成果は数知れない。しかし、ダンサーを含め、この作品に精魂を傾けてくださった方々にこのようなことばが向けられることを、承服するわけにはいかなかった」。自分自身がどこまで踊りを正しく語る言葉を持っているか、改めて自問するきっかけになった、とも前向きに語る。
憲法を素材に踊り始めたのは、安倍政権が「改憲」への動きを鮮明にし始めたあたりから。争いが絶えない世の中で、人間として生きるとはどういうことか。さまざまな人が言葉と心を寄せ合い、ことばが成ってゆく。そうして時代も国境も超え、普遍の人間性が探られる。その究極が「憲法」と笠井は言う。
舞台には笠井を含む約20人のダンサーが立つ。「葬送行進曲」を含むベートーベンの交響曲第3番「英雄」の荘重な響きに守られつつ、人間の尊厳を問う言葉が交錯する。大日本帝国憲法。フランス革命の人間宣言。終戦時に「人間宣言」をした天皇を呪詛(じゅそ)する、二・二六事件の青年将校らの霊が登場する三島由紀夫作品「英霊の声」。ドイツ語による母と子の祈り。そして玉音放送。
「反対や賛成といった理屈に自身を落としこむ前に、己の身体で憲法をことばで『体感』してもらいたい。自分の肉体そのものでことばを感じることの究極が、自分自身がどう生きるかということを問うことになる。そう私は思います」
午後7時半、3千円。電話042・316・3508(天使館)。