☆コンサートの思い出

 

けっこう寒い朝だな。
洗濯機を回し、2階の掃除をし、コーヒーを淹れる。金曜日は朝飯省略。

起きたらすぐにラヂオをつける。NHK-FM。
ここ数日、学生音楽コンクールの様子を流している。今日は声楽の部。
一人めのソプラノを耳にしてすぐに思った。西洋音楽の発生というのはビブラートをかけるのが普通で、それが当たり前のことなのだろうか。なぜそうするのだろう?

俺は男声でも女声でもビブラートをかけずに真っすぐに歌うのが好きだ。例えば誰だろう。
男なら岡晴夫とか、女性ならEmily Van Everaが大好きだ。ふたりが違いすぎておかしいけど。

で、思い出した。谷村由美子ってどうしているのだろう。
フランスだかスイスで活躍していたのだったか。
ずいぶん前にミシェルコルボの来日で日本の舞台に立ったが、それ以来どうしているのか知らない。
俺はこの人を知らなかった。その来日でも決まっていたソプラノが来られなくなっての代打で来たのだ。
プログラムは「マタイ」と「フォーレのレクイエム」。
おー、すげえ。コルボのフォーレだよ。ということで両方のチケットを買った。
当時の俺はバッハのマタイに熱狂していて10セットくらいは色んな指揮者で持っていた。古いメンゲルベルクの名盤とカラヤンの1950年の、マウエルスベルガー、レオンハルトとプティットバンドのなどが好きだったが、武満徹氏は殊にコルボ盤を好んでいたと聞き俺も気にしていたものだ。

まずはマタイ。サントリーホール。
そこで初めて聞いた谷村由美子の歌声にやられた。
なんて美しい声なんだろう。母音が柔らかく温かい。こんな声でマグダラのマリアをやられたら、たまらん。俺は骨抜きのとろとろになりソプラノのアリアを待ち、そのたびにトロケタ。
コンサート自体は、アリアのたびにソリストが前に出てくる。歌い終わるとコロスの中の定位置に戻るという演出がまだるっこしく少しだれた。長い作品なのだ。
期待のガンバのソロも難しいもので途中で音楽が途切れてしまいそうなギリギリの演奏でヒヤヒヤ。
わかった、こりゃみんな時差ボケだな。長旅からのすぐの本番ではしょうもあるまい。生身の人間だ。
とにかく終曲までいけて、いいコンサートだった。生の人間が体調の悪さを携え偉大な芸術に挑戦する姿に俺は感動した。そして谷村由美子というシンガーを知れた幸福を胸にウホウホで帰途に就いた。あさってはフォーレも聴きに行けるのだもの。

で、次はオペラシティ。
まずはヴィヴァルディ「Dixit Dominus」。これもEmily Van Eneraで持っていて大好きな作品で。今日もソプラノは谷村由美子。やはり伸びやかなアリアは柔らかい母音がたまらなく気持ちいい。そう、ヒョロヒョロ~~ってビブラートをかけない。真っすぐに声を出す。日本語を話す日本人は母音を生かすのが自然なのだろうと思った。彼女の発声がこういうスタイルなのか、コルボの演出によるものなのかは分からないが。
ソプラノソロの「Pie Jesu」は観客が一番期待している場面。ホール全体が息をころして集中して聴いている。そのソロは見事だった。
終曲まで熱演でコルボの神髄を見せてもらった。
そして俺は宝物をみつけたようなとても嬉しい気持になっていた。


これはアラン・クレマンのボーイソプラノ