この季節になると口笛を吹く曲がある。
無意識のうちに吹いている。吹き始めてから何の曲か思い出す。
けれど何の曲か知らない。
いつもこの季節だ。
1998年11月。世田谷パブリックシアター。
元藤燁子さんの公演「昭和というかげろう~土方巽とともに」に出演した。
アスベスト館の人たちに混じり、天使館からSと共に出演した。
この公演のオープニングは舞台の防火シャッターが閉まっていた。サイレンの音と共にシャッターが開いてゆく。
舞台には足場が組まれており、踊り手たちは黒子になって脚だけを外へぶら下げて足場に坐っている。真っ暗の舞台で白塗りにした無数の脚がダンスしている。という幕開け。
このシーンで流れていた曲がとても印象的だったのだ。
女性の歌なのだけど、何なのか知りたくて音響の人に聞いてみた。
歌手のCDとかではなくて、テレビから流れていて、いいなと思って録音したものだそうだ。どこかの外国の家族の風景で、そこのお母さんが歌っていたとか。。
それ以外の手がかりは無し。。
踊りを始めてまだ2年め、3回目の舞台だった俺にとっては非常に貴重な体験で忘れられない日々。三茶まで電車で出かけ、劇場の楽屋口から「おはようございます」と入り、名札を裏返し、よその稽古場の人達とリハーサルを重ねる。
緊張していた。パントマイムの佐々木博康氏、役者の高田恵驚氏、そして師匠笠井叡と同じ楽屋割だった。
ワクワクと緊張と強烈な興奮が満ち満ちている。
そんな体験とあの曲が、11月の空気と一緒になって俺の胸から消えない。